整形外科-骨折の予防について-

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介護予防の最前線  メタボとロコモ~骨折を防ぐために~

たまねぎ通信17号より 2011/5

血圧管理で脳卒中予防 ─介護予防に大きな成果

日本ではかつて癌よりも脳卒中による死亡が多かったですが、いまや血圧管理・健康管理は国民の常識となり、脳卒中で亡くなる方は激減しました。癌が死因のトップになってから久しいですが、とはいえ、要介護状態の原因としてメタボ系の疾患は、脳血管疾患を筆頭に、心疾患や糖尿病などで約3割、今後とも介護予防の重点課題には違いありません。

介護予防のもう一つの焦点 ─転倒・骨折と関節疾患

谷啓さんが階段からの転落事故でなくなったのは記憶に新しいところです。実は転倒転落による事故死は交通事故死を上回ります。たとえば大腿骨頚部骨折・転子部骨折は年間約17万人が受傷し、その1割は1年以内に亡くなっています。要介護状態の原因としても骨折・転倒が9.3%、関節疾患が12.2%、合わせて約2割は骨折転倒や関節疾患が原因です。合わせると脳卒中と同じぐらいの比率です(図1)。

骨折は予防できる ─新薬も続々登場

骨粗鬆症は「骨折しやすい体質、骨折しやすい病」です。骨密度が良くても骨粗鬆症のこともあるので要注意。体質はクスリで改善できます。

強力な骨吸収抑制剤、アレンドロネート(ボナロン®、フォサマック®)やリセドロネート(アクトネル®、ベネット®)などの新世代ビスホスホネートが登場して骨粗鬆症治療のパラダイムシフトが起きました。複数の大規模なランダム化比較試験(RCT)で骨折の相対リスクが40-60%減少することが示され、骨折が予防できる病気になったのです(図2)。脳卒中を7分の1に激減させ、天然痘を撲滅させたように、骨折を半減できる可能性が出てきました。いえ、可能性だけでは有りません。カナダなどいくつかの国ではすでに大腿骨近位部骨折の発生率低下が報告されています。

SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)である塩酸ラロキシフェン(エビスタ®)は女性ホルモン補充療法の欠点(乳がんの増加、不正性器出血)などを改良しました。2006ガイドライン上で非椎体(四肢)骨折で推奨度Bですが、骨質改善効果があるといわれており、注目が高まっています。テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)は骨形成促進薬、日本発の新たなビス剤、ミノドロン酸水化物(リカルボン®、ボノテオ®)、新たなSERMとしてバセドキシフェン(ビビアント®)、骨折予防効果を持つ活性型ビタミンD誘導体・エルデカルシトール(エディロール®)などが販売開始されています。さらにデノスマブ(抗RANKL抗体)が承認されました。

転倒も予防できる ─「ロコモティブ症候群」を治療しよう!

ロコモティブ症候群は、おおざっぱに言えば足腰が弱く転びやすいこと。いわば「足腰弱い病」です。骨粗鬆症でも転倒しなければ滅多に折れません。転倒を減らして骨折を予防しましょう。糖尿病性神経障害などで足の感覚が鈍い方にも要注意です。太極拳などの運動で転倒が50%以上減少すること、睡眠薬や降圧剤の見直しで70%も減少することなどが報告されています(表1)。〔骨粗鬆症ガイドライン2006年〕

骨強度増加・バランス能力向上に、ダイナミックフラミンゴ体操(片脚立ち)は1分間で歩行53分に相当する効果があります。椅子からの立ち上がりも安全で効果が高いです。ふまねっと運動は介護予防にと北海道で生まれました。勤医協友の会の健康相談会で体験できます(問合先:東友の会事務局 電話 011-782-3317)。

片脚立ちができない(15秒未満)ときは、より重症のロコモ「運動器不安定症」の疑いがあります。骨折予防のための運動で転倒骨折しては逆効果ですので、無理せず安全確保のために医療機関でのリハビリを推奨します。保険給付が可能ですので、お近くの整形外科医(できれば運動器リハビリテーション専門医)にご相談ください。

骨粗鬆症の診断・管理は骨密度測定装置がなくてもできる

骨粗鬆症の診断、薬物治療開始のアルゴリズムを図に示します(図3)。「脆弱性骨折」の既往があればすでに診断基準を満たします。「脆弱性骨折」の目安は、立った高さ程度からの転倒・受傷です。しかし、氷結路での転倒や小さな段差からの転落など判断に迷う場合には骨密度YAM80%未満を参考にします。

骨密度はできれば体幹骨、すなわち腰椎か股関節で測定します。ビス剤やSERMの効果は末梢骨では現れにくいので治療効果を判定できません。血圧と異なり、骨密度はあまり変動しません。ビス剤やSERMは骨密度を増加させますが、その後は年齢効果もあり頭打ちもしくは徐々に低下してきます。

治療目標は骨密度増加でなく骨折予防です。骨密度が上がらないことで治療意欲を萎えさせないよう、検査結果の説明には注意が必要です。

骨密度を測定できない場合でも骨折予防ができるように、世界保健機構はFRAX(WHO骨折リスク評価ツール:「FRAX 骨折リスク 評価ツール」で検索可)(図4)を開発しました。骨密度検査ぬきでもその他の危険因子をyes/noで記入すれば10年以内の骨折確率を計算できます。全米骨粗鬆症財団の診断基準では、股関節骨折が3%以上または主要な骨折が20%以上の確率ならば治療開始です。

現在骨粗鬆症の患者さんは約1,100万人いるといわれていますが、そのうち治療されているのは15%ほどに過ぎません。以前に骨折した方が、予防薬を服用しないまま別の骨折で担ぎ込まれてくることをしばしば経験します。無症状で進行増悪し、イベントが発生すると取り返しがつかない点で高齢者の骨折は、脳卒中・心血管イベントと似ています。健康教育・介護予防は第一線医療機関との協力が重要です。

骨質マーカーの話題

ところで骨密度が良くても骨折しやすいことがあります。たとえば骨が細ければ折れやすいことは理解しやすいですね。これは構造的骨質。材質の善し悪しは材質的骨質といいます(図5)。東京慈恵会医科大学の斎藤充先生は、「骨質マーカー」を開発しました。骨質マーカーはコラーゲンの老化産物そのものを測定し、その老化状態を判別します。__コラーゲンは、鉄筋コンクリートの鉄筋、骨密度はコンクリートに相当。いわば鉄筋の錆びを評価します。骨質と骨密度低下の組み合わせでⅠ「骨質劣化型」、Ⅱ「低骨密度型」、Ⅲ「低骨密度+骨質劣化型」の3タイプに分けると「骨密度が高く骨質の良い人」に比べて、Ⅰのタイプでは1.5倍、Ⅱでは3.6倍、Ⅲのタイプは7.2倍も骨折の危険性が高くなることが判明しています。

糖尿病、高血圧、動脈硬化、腎機能障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの患者さんは、全身性のコラーゲンに過剰老化が生じるため、骨密度が高くても骨質劣化型骨粗鬆症と診断できます。メタボは骨質も劣化するのです。